第100回有機合成シンポジウム記念特別講演会に行ってきました
製薬業界の現状
就職活動が本格化する中、化学系の学生で製薬企業に就職している方は薬学部生以外も多くいます。ここでは、先日行われた大手製薬企業による就職ガイダンスで話された内容をまとめたいと思います。
- 製薬業界の職種
①研究職
主な仕事としては、医薬品の構造最適化や新たなリード化合物の創出、薬理活性の評価、医薬品の品質評価や分析、安全性確認などを行います。
②臨床開発職
医薬品の研究・開発の最終試験として、臨床試験を行い、その医薬品が期待する活性や安全性を示すかを評価、分析をします。
③MR職
MRは医療関係者に対して、薬の薬効や副作用、正しい使い方などの説明や、医薬品の発売後に判明した副作用などを収集する役割を持ちます。一般的な営業職とは、価格交渉を行わないということや、MRになるためのMR認定試験に合格しなくてはならないという点が異なっています。
緑色蛍光タンパク質を真似してRNAを光らせる
緑色蛍光タンパク質(green fluorescent protein; GFP)は、研究の世界で今や欠かすことのできない存在となっています。その重要さが認められ、オワンクラゲからの単離に成功した下村脩氏は、2008年にノーベル化学賞を受賞しました。今回は、タンパク質ではなく、RNAでも光らせよう、という話題を紹介します。
ナノの世界の交通事情~セルラーゼも渋滞する~
茨城の女子高生が快挙!
Rebirth of a Dead Belousov-Zhabotinsky Oscillator
Onuma, H.; Okubo, A.; Yokokawa, M.; Endo, M.; Kurihashi, A.; Sawahata, H. J. Phys. Chem. A ASAP, DOI: 10.1021/jp200103s
茨城県立水戸第二高等学校の数理学同好会に所属していた女子高生らの発見がJournal of Physical Chemistry A誌に掲載されるという快挙を成し遂げました。
水戸第二高等学校はスーパーサイエンスハイスクール(SSH)にも指定されており、理系の教育に力をいれておられるようです。本研究内容は日本化学会関東支部主催の第26回(2009)化学クラブ研究発表会などでも報告されていましたので、既にご覧になった方も多いのではないでしょうか。また、この結果を2010年度日本物理学会のJr.セッションにて発表したところ、テキサス大学オースチン校のペトロスキー教授に論文の執筆を勧められたそうです。
今年の光学活性化合物シンポジウム
先日、光学活性化合物シンポジウムに参加しました。今年で第21回目であり、参加費無料ですので、初めて本シンポジウムの名前を聞いた方も次回こそ参加しましょう。毎年、本シンポジウムでは、Yamada-Koga Prizeの受賞式と、受賞講演、その他に招待講演があります。
第37回反応と合成の進歩シンポジウムに参加してきました。
11月7日、8日に徳島県のあわぎんホール(徳島県郷土文化会館)で開催された第37回反応と合成の進歩シンポジウムに参加してきました。
海の底にレアアースが見つかる
ランタン・セリウム・プラセオジム・ネオジム・プロメチウム・サマリウム・ユウロピウム・ガドリニウム・テルビウム・ジスプロシウム・ホルミウム・エルビウム・ツリウム・イッテルビウム・ルテチウム、15のランタノイド元素に、スカンジウム・イットリウムの2つを加えて希土類金属元素と呼びます。産業上、重要なこれらの資源が海の底に眠っているという報告を、今回は紹介します。
近況報告PartI
11月は個人的に怒涛の月でした(まだ終わっていませんが)。様々な出来事がありまして、それぞれ1つの記事として紹介したいところですが、残念ながら時間がありませんので「近況報告Parit I」としまして、今月の筆者のまわりで起こった「my化学イベント」をご紹介したいと思います。(またこれからも「まとめて1本!記事」が増えるかもしれないのでPart 1としてみました)
【書籍】研究者の仕事術~プロフェッショナル根性論~
本書のコンセプトは、ビジネス界の良書からエッセンスを抽出し、それを元に研究者として生きていく為の「仕事術」を説くというものです。
科学研究は一握りのエリート的な人種によって行われているように見えますが、エリートであろうがなかろうが、仕事の過程で悩み苦しみ打ちのめされ、それを乗り越えていく過程は誰しも存在します。
本書は研究者の仕事というものを「人間的成長を遂げるプロセス」と捉え、各ステージに必要な考え方を紹介する、という構成になっています。この優れた工夫により、研究者に限らず広く一般に通じる優れた内容に仕上がっています。
2009年に発刊された書籍ですが、最先端研究現場の厳しさとやりがいを肌で感じられる良書の一つです。
文具に凝るといふことを化学者もしてみむとてするなり ⑦:「はん蔵」でラクラク捺印の巻
なんだかんだで日本社会では印鑑と言うものが必須で、書類にいちいち押さねばならないことが多くあります。(国立大学なんてのはその最たる場所です)
欧米だと手書きサインひとつで方がつくことが多く、さほど重要でない書面なら「署名をデジタル画像にして貼りつければOK」なケースさえあるのですが、これが日本だとどうでしょう。
電子メールに添付された書類をわざわざ印刷し、デスクの中を朱肉はどこだハンコはどこだと探し、送付も電子メールではダメで、わざわざ原本を郵送しなくてはいけない・・・時には「シャチハタ不可」な場合まで。加えて筆者は海外在住時に、某国内機関から頑なに捺印を要求された経験があります。郵送に日数が必要で速達送料も激高にも関わらず、再提出を余儀なくされて、締め切りに間に合わなかったことも幾度と無く。全く面倒きわまりない!
そんな現実に「こんなんeメールでいいじゃん、アホか!」と思いたくもなるというもの。最近では民間の配送業者でも受取ハンコを要求しなくなり、手書きサインでもOKな所が多くなったというのに・・・。えぇ、勿論、ちゃんとしたセキュリティを国ぐるみで追求してるのは嫌というほど分かっておりますよ、えぇ・・・
・・・まあ日本で仕事をする限り、仕方がないとこではあります。文句言っても始まらないので、少しでもストレスを軽減することを考えましょう。
いきなりネガティブ全開で申し訳ないですが、そんな「書類嫌い」な方にうってつけのアイテムが、この「はん蔵」なのです(笑)。
【書籍】理系のための口頭発表術
「どんなに素晴らしい研究成果をあげても、その発表がつまらなければ全てが台無しである」
世の中には星の数ほどのプレゼン指南書がありますが、理系向けでしかも良質な書籍というとあまり多く無いように感じます。この「理系のための口頭発表術」は、欧米で科学研究発表を行う学生向けに書かれた、プレゼン教科書の和訳版です。値段も880円と大変お手頃で、発表経験が浅い学生にとってうってつけの書物の一つです。
科学発表は「議論と理解を深めること」が至上目的であり、「競争に勝つ」ため行われるビジネスプレゼンとは異なる部分も多くあります。本書はそのような独特たるポイントについても多く言及しており、なかなか興味深い内容になっています。
安価ですし、是非ご自分で購入して読んでいただきたいですが、参考までにここでは「手っ取り早くプレゼンを改善させるポイント」を、本書から抜粋して紹介してみようと思います。
セルロース由来バイオ燃料にイオン液体が救世主!?
セルロースから作るバイオエタノールに、イオン液体が救世主として現る!?
植物の細胞壁に含まれ、最も重要な成分の1つがセルロースと呼ばれる高分子多糖です。セルロースをバイオ燃料に変えるためには、化学的に安定なセルロースをどうにか細切れにしなければなりません。この困難を克服するために、以前は電池材料や特別な潤滑剤として注目されていたイオン液体と呼ばれるちょっと変わった物質が、あらためてまた注目され始めています。
孫悟飯のお仕事は?
「お父さん、ボク、本当にえらい学者さんになれるかな?」
女性化学賞と私の歩み【世界化学年 女性化学賞受賞 特別イベント】
【世界化学年 女性化学賞受賞 特別イベント】女性化学賞と私の歩み 相馬 芳枝(そうま よしえ)さん 神戸大学 特別顧問
日時:2011年11月27日(日)11:30~
入場料金:大人 2000円 中高生 1500円 小学生 1000円 ランチと1ドリンク付
入場料金がかかりますが、基本的にランチとドリンクのみの料金ですので、紹介させていただきます。
仙台の高校生だって負けてません!
Ag2O3 Clathrate is a Novel and Effective Antimicrobial Agent
Ando, S.; Hioki, T.; Yamada, T.; Watanabe, N.; Higashitani, A. J. Mater. Sci. Online First, DOI: 10.1007/s10853-011-6125-0
先日茨城の女子高生がBZ反応における新発見によりJournal of Physical Chemistry A誌に論文を発表したことをお伝えしましたが(記事:茨城の女子高生が快挙!)[1]、今度は仙台の女子および男子高校生がやってくれました。
仙台第二高等高校の化学部に所属する3名らが行った研究を、東北大学科学者の卵養成講座(独立行政法人科学技術振興機構「未来の科学者養成講座」委託事業)において行われた研究をJournal of Material Science誌に報告しましたので、彼らの研究内容について紹介したいと思います(公立の第二高等学校というところが共通しているのは偶然でしょうか)。論文は東北大学科学者の卵養成講座(独立行政法人科学技術振興機構「未来の科学者養成講座」委託事業)の協力の下執筆されたとのことです(2011.11.29.加筆訂正)。
タキサン類の全合成
最近Nature Chemistry誌に公開された、Baranらによるタキサン類の全合成について紹介したいと思います。
なんてもたもた記事を書いていたら、海外の化学系ブログB.R.S.M.さんに詳しい記事が!!(-_-;) なんだか二番煎じのようになってしまいましたが日本語バージョンということでお許しください。
''Scalable enantioselective total synthesis of taxanes''
Mendoza, A.; Ishihara, Y.; Baran, P. S. Nature Chemistry 2011, ASAP. DOI: 10.1038/nchem.1196
Taxadienoneをはじめとするタキサンジテルペノイドはイチイ科植物から算出されるテルペノイドであり、現在までに350種類以上の類縁体が報告されているようです。中でもタキソールは、乳がん等に顕著な治療効果を示すことに加え、非常に複雑な構造であることも相まってこれまで多くの合成研究が展開されてきた化合物です。2011年現在までに6例の全合成が(R. A. Holton, K. C. Nicolaou, P. A. Wender, S. J. Danishefsky, T. Mukaiyama, I. Kuwajima)、1例の形式全合成が(T. Takahashi)報告されております。
しかし、いずれの合成法でも非常に長いルートを余儀なくされており、全合成による大量供給は到底不可能な状況です。これは多くの酸素官能基が密集する8員環の構築というものが非常に難しく、保護基を付けたり付け替えたり、あるいは外したり酸化したり等々の工程が生じてしまうためでした。
一方で生物はこの化合物をどのように作っているかといいますと、まずゲラニオールの2量体が環化することでTaxadieneを生成し、続いて酵素によるタキサン骨格の酸化によってタキソールを産出しています。このように生合成では化学的な全合成とは大きく異なっています。
ではなぜ化学者はこのような合成法をとらないのか?といいますと、これまでC-H結合を狙った位置で、しかも立体選択的に酸化する方法はほとんど皆無であり、極めて難しいと考えられていたためです。しかし最近の不活性なC-H結合の酸化反応の発展に伴い、このような全合成も不可能ではなくなりつつあります。
これに挑戦したのがPhil Baranです。Baranはテルペンの合成に際し、2段階に分けた合成法を提案しています。
すなわち
- 骨格の構築(cyclase phase)
- 炭素骨格の酸化(oxidaze phase)
というように、必要最小限の官能基を有する骨格を早い段階で構築し、後から酸化度を上げていくという生合成に似たコンセプトです。2009年にはこれに基づいたeudesmane類の合成を報告しています。(P. S. Baran et al., Nature, 2009, 459, 824-828. DOI: 10.1038/nature08043)
このような戦略をとることで、あらゆる類縁体の合成が容易になりますし、酸素官能基の導入が後半となりますので保護基等の必要が少なくなり工程数も削減できるというわけです。
今回の論文は、タキサン類合成の「1.骨格の構築」にあたるTaxadienoneの不斉合成をわずか7工程、しかもグラムスケールで行ったというものです。
一流の化学雑誌をいかにしてつくるか?
Angewandte Chemieの編集長Peter Gölitz(ピーター・グゥーリッツ)氏に対するインタビューがChemstryviewに掲載されていました。
30年間編集長を続けた彼が、現在ドイツ最高で国際的にも有数な化学ハイジャーナルであるAngewandte Chemieを如何にしてつくりあげたのか?その秘訣に迫る興味深い内容でしたので紹介しようと思い、翻訳いたしました。
遷移金属を用いない脂肪族C-H結合のホウ素化
N-Directed Aliphatic C–H Borylation Using Borenium Cation Equivalents
Prokofjevs, A.; Vedejs, E. J. Am. Chem. Soc. 2011, Early View. DOI: 10.1021/ja208093c
近年、“環境に優しい”ということがあらゆる分野で求められていますが、有機化学の分野でも非常に大きな流れになっています。そのような観点から、廃棄物をださない直接的な化合物の合成方法が求められています。そのような潮流のなかで、不活性なC-H結合の直接官能基化は、目的の化合物への直接的かつ革新的な合成経路を提供することができると考えられるため盛んに研究されています。
そのひとつとして、安定なC-H結合を直接C-B結合に変換する反応は、生成物のホウ素化合物が有用であることから重要であり、遷移金属触媒を用いた変換反応が報告されています。安定なC-H結合には大きく分けて芳香族C-H結合と脂肪族C-H結合がありますが、脂肪族C-H結合からC-B結合への変換反応は筆者には直感的に難易度が高く感じられ、例えばカリフォルニア大学のHartwigらによるアルカンの位置選択的ホウ素化が印象深いです[1]。
一方で最近では、レアメタルの高騰や産出地の偏在性を背景として、遷移金属触媒を用いた反応の代替反応の開発も盛んに行われています。今回、ミシガン大学のVedejsらは、窒素が配位した三配位ホウ素カチオン種(ボレニウム塩)を用いることで、遷移金属を用いずに脂肪族C-H結合をC-B結合に変換できることを報告しました。
低分子医薬に代わり抗体医薬がトップに?
低分子医薬アトルバスタチン(リピトール)の特許切れのニュースが2011年11月末にありました(参考:リピトールの特許が切れました)。今月、効果は同じで低価格である後発医薬品(ジェネリック医薬品)承認、発売間近であるというニュースも報道されています。世界で最も売られていたアドルバスタチンも、ついに売上高を減らしていくこととなります。
一方で、世界銘柄別売上上位30品目には、リツキシマブ・トラスツズマブ・ベパシズマブ・インフリキシマブ・アダリムマブと「~マブ」という名称が多くみられます。これらは抗体医薬と呼ばれ、分子の構造を書き表すことができる低分子医薬品とは少し異なります。売上の観点からお話ししますと、関節リウマチ治療薬のアダリムマブ(ヒュミラ)は、Evaluate Pharma社の予測によると、この調子で売上を伸ばせば、2016年に世界医薬品売上ランキングの王座を獲得するとかしないとか。
ケミストリーで生産した医薬品から、バイオで生産した医薬品へ、新薬開発の主戦場はどうなるのか。「抗体医薬って何?」というおはなしをしましょう。