化学小説で大活躍中の喜多喜久氏。これまでもケムステでは彼の執筆活動を応援する目的ですべての書籍を紹介しています。この度、新たな化学を題材にした短篇集を出版予定であるということで、新書籍のPRを喜多氏自身にお願いさせていただきました!
【書籍】化学探偵Mr. キュリー
化学物質だけでiPS細胞を作る!なんと遺伝子導入なしにマウスで成功
わたしたち人類は、化学の方法論が確立して以来、多種多様、膨大な数の分子を見つけ、また新たに合成してきました。この広大な化合物空間に不可能を可能に変える奇跡の組み合わせがいまだ眠っていると考えられています。
遺伝子導入なしにiPS細胞を作る。今まで多くの人が、それは難しいだろうと考えていました。導入する遺伝子を一部だけ代替したり、あるいは作成効率や作成時間を改善したりすることはできても、全部ひっくるめて取りかえる条件はそう簡単には見つからないし、そもそもあるかどうかも分からない、と。
そして、化学物質だけでiPS細胞の作成を達成。そんな、驚愕の成果[1]が公表されました。山中因子4つのいずれも使用せず、したがってウイルスを使うなど遺伝子導入なしに、マウス体細胞からiPS細胞の作成に成功したようです。7種類の化合物を使った場合は効率0.2パーセントであり、最少4種類の化合物でも作成自体は可能とのこと。サイエンス誌の電子速報版(Science Express )で取り上げられているほどなので、たくさんの人が注目すると考えられます。
*ケムステ過去記事『化学物質でiPS細胞を作る』参照
フリーラジカルの祖は一体誰か?
化学の世界に限らず科学の世界では時に誰に先取権があるのかが微妙な場合があります。著名な雑誌に著名な研究者が報告したことが、実は既にそこまで著名ではない誰かによってそこまで著名ではない雑誌に報告されていた事が後日発見されるという事は珍しくないようにも思えます。
それがノーベル賞ものの発見だった場合は大騒ぎになるわけで、ノーベル賞の選考は非常に厳密に、細部に渡って検討されていると聞いています。それでもやはり毎年のように先取権について議論があることは事実です。
国家のパワーバランスや歴史の綾と言ってしまえばそこまでではありますが、当人にしてみればたまったものではありません。
3Dプリンタとシェールガスとポリ乳酸と
夏のお肌に。ファンデーションの化学
夏です!夏休みですね!海水浴、プール、登山、お祭り、花火大会などなど楽しい場所に出かける機会も多いかと思います。
私は離島巡りが好きなので先月には礼文島・利尻島を旅行してきました。日本最狂と呼ばれるユースホステルに泊まり「愛とロマンの逆8時間コース」に参加した際、直射日光に文字通り長時間さらされて真っ赤に日焼けしてボロボロに剥け、大変なことになりました。元々色素が薄く日にうまく焼けにくい体質なので、少しは肌を気にすべきだったのかもしれません。
読者の中には常日頃からきちんとスキンケアに気を遣っている方がいることでしょう。前置きが長くなりましたが、今回は女子向けにお肌に関するトピック(?)、ファンデーションの化学について書いてみたいと思います。
抗ガン天然物インゲノールの超短工程全合成
14-Step Synthesis of (+)-Ingenol from (+)-3-Carene
Jørgensen, L.; McKerrall, S. J.; Kuttruff, C. A.; Ungeheuer, F.; Felding, J.; Baran, P. S. Science 2013, Science Express. doi:10.1126/science.1241606
インゲノール(Ingenol)は抗ガン活性を持つ天然物の一種です。その誘導体インゲノールメブテート(商品名Picato)は、皮膚ガン(日光角化症)の薬として、ごく最近(2012年)米国FDAより医薬承認を受けています。
チャボタイゲキ(Euphorbia peplus)と呼ばれる植物からの抽出で供給されていますが効率は悪く、大量供給法が望まれる現状です。後述しますが、これは化学合成・生物合成いずれの立場からも非常に難しい課題とされています。
これに合成化学からの解決を図ったのが、世界の注目を集めるPhil Baran教授。Picato開発元の製薬企業LEO Pharmaとコラボし、この複雑化合物を僅か14工程で合成。大量化学合成への道を見事に拓きました。
純粋全合成がScience誌に載るのは大変珍しいですが、これほどの圧倒的成果であれば誰しも納得せざるを得ないでしょう。今回はこの成果について紹介してみます。
ちょっと変わったイオン液体
新機能で広がるイオン液体の応用範囲
反応溶媒に、電池材料にと、今まで注目を集めてきたイオン液体。従来は思いもよらなかった機能が新たに付け加えられて、期待される応用範囲は広がりつつあります。アミノ酸イオン液体に、磁性イオン液体に、農薬イオン液体。さらには次世代医療の急先鋒、核酸医薬にも使われて、まだまだアイディアは出てきそうです。
決め手はケイ素!身体の中を透視する「分子の千里眼」登場
進撃のタイプウェル
タイトル落ちですが、「おまえら英語よりもタイピングやろうぜ~初級編、中級編、上級編~」を受けてタイプウェルでタイピングの練習をしてみました。化学とは関係のない記事ですが夏休みですので許してくださいね。さて英語を1000時間以上勉強しても全く上達していない筆者でもタイピングは上達したでしょうか。
光化学スモッグ注意報が発令されました
酷暑お見舞い申し上げます。
気温が35度とか聞いても驚かない自分に驚きます。私が子供の頃は30度というと暑いねえという感じだったような気がするのですがこれがノスタルジーと言う物でしょうか。ノスタルジーと言えば東京在住の私の記憶では幼い頃の夏休みにつきものだったのが、遠くから聞こえる“こちらは・・・区役所です。こうかがくスモッグ注意報が発令されました。”という公共の放送でした。
現在夏期休暇をいただいておりますが、久しぶりに昼間自宅にいたところ遠くから懐かしいとも感じる放送が。しばらく光化学スモッグ注意報などというものを忘れておりましたが現代でもあるんですね。
中学生の研究が米国の一流論文誌に掲載された
技術立国を標榜する我が国では次世代の技術者、科学者をいかに養成していくのかが国の将来を左右します。ジュニア世代に科学技術に対して興味を持ってもらうことは非常に重要です。
アカデミアの世界でも様々な試みがなされていますがその成果として、なんと埼玉県の中学生が行った研究が米国の一流論文誌に掲載されるという快挙として結晶しました!
化学でもFermi推定
とある大学にて・・・
毎年物理化学の講義が開始される時間は同じような光景が繰り返されている。
学生たちはどこか落ち着きがなく不安そうで、クラスルームの雰囲気もざわついて落ち着かない。
講義室に入り私は30秒ほど沈黙する。学生全員が沈黙するまでの時間だ。それはまるで30時間にも感じる時間だ。
沈黙の中で毎年決まった質問を発する。
“ベンゼン環の周囲の長さはおよそどれ位か解る人はいるかい?”
“それって私たちは知ってることでしょうか?”
しばしの沈黙が場を支配した後、やがて誰かがやっとたずねる。
これはクイズでは無いということを説明すると、さて次に学生がとる行動は・・・
UCリアクター「UCR-150N」:冷媒いらずで-100℃!
皆様毎日化学研究に勤しんでいると思います。このたびあったらいいな!を実現する化学メーカーさんにイチオシの製品を紹介してもらうコーナー(カテゴリ)「製品情報」をつくりました。
とはいってもランダムによくわからない製品を紹介されても困りますので、化学者による化学者のためのサイト「ケムステ」としては以下のことを考慮したいと思います。
1. 記事はケムステで作成:現役化学者の意見
2. ケムステスタッフができる限り触って使った製品を紹介:良さそう面白そうではなくて良いもの面白いものを
3. 正直な意見を:長所があれば必ず欠点もあります
もし紹介した製品をみたらケムステでみました!といってくれればさらに交渉は進めやすくなるかもしれません。では、記念すべきこのカテゴリの第一回目は...
毎回ユニークな製品を生み出すテクノシグマさんの極低温反応装置UCリアクター「UCR-150N」 に焦点を当ててみました。
構造式を美しく書くために【準備編】
化学はとにかく「ビジュアル要素」が強い学問です。分かりやすい文章を書くだけでは「化学」を伝えるのに不十分であり、化学構造式に気を遣わない姿勢は、全く片手落ちといえるでしょう。
普段我々が何気なく見ている論文にしても、どれも整ったバランスで構造式が仕上がっています。綺麗な紙面は、それだけで論文を読むストレスを大幅に減らしてくれます。構造式のスタイルやレイアウト一つで、情報伝達の効率が格段に違うわけです。
そこで本シリーズでは、「見やすく整った化学構造式を書くための工夫」について紹介してみたいと思います。
まずはその【準備編】。普及版であるChemDrawを例にとりますが、無料ソフトのChemSketchやMarvinSketchなどにも使えるような、基礎をメインに説明します。
オープンアクセス論文が半数突破か
ただし他分野と比べ化学のオープンアクセス比率は低め
論文のオープンアクセス比率について大規模調査の結果が公表されました。そこで、ひととおりの情報をまとめ、考えを文章にしてみました。
オープンアクセスについてどう考えますか?
世界の中心で成果を叫んだもの
2020年オリンピック開催が東京に決まりました。世界のトップアスリートが集うオリンピックが自国で開催されるなんて滅多にないこと。まだ先の話ですが、ワクワクしますね。
7年後に向けて、世界で闘う日本のアスリートには今後注目が集まっていくことでしょう。しかしいつも悲しく思うのは、分野は違えども世界を舞台にしている研究者にはなかなか注目が集まらないという事実です。研究者も、オリンピックに向けて負けないようにアピールしていく必要があります(?)
というわけで、今回は市民に感動を伝える研究アピール・成果発表について考えていきたいと思います。
アルメニア初の化学系国際学会に行ってきた!①
ケムステ読者の皆さん、こんにちは。
学会シーズン真っ盛り、あっち行ったりこっち行ったり、何かと多忙な日々をお過ごしの方も多いことでしょう。
筆者も「結果がある限り、年一回海外に行ってOK」というボスの言に則り、今年もめでたく海外学会に行ける運びとなりました。
どこに行こうかな~と国際学会一覧のページを眺めていると、おや?なんか見慣れない名前の国が視界をよぎったような・・・
ア ル メ ニ ア !!?
こんなマニアックな国でなぜ化学の学会が?アルメニア発の化学なんて、聞いたこと無い・・・しかし、どういうワケか講演者が凄く豪華なんだが?
これは行く価値あるんじゃないか?こんな機会でも無い限り、絶対行かない国だろうし、国の雰囲気もなかなか好みだ・・・うん、化学はさておきこれはもう行くしかない! (以上、思考およそ1分)
・・・というわけで、ラボの同僚を(半ば無理矢理)捕まえ、参加することに決めました。
化学国際会議ArmChemFront2013、参加レポートです!
【速報】2013年イグノーベル化学賞!「涙のでないタマネギ開発」
ノーベル賞の前哨戦?として毎年行われているイグノーベル賞。「人々を笑わせ、そして次に考えさせる」研究を行った科学者らに、正真正銘のノーベル賞受賞者たちから渡されます。
これまでも、ケムステでは2007年よりイグノーベル化学賞について、速報・解説を行ってきました(関連記事参照)。そして本年度も、2013年のイグノーベル化学賞が本日発表となりました。
「タマネギを切ると涙が出るしくみを詳細解明」:今井真介(ハウス食品)ら、7名
え、そんなのわかってなかったの?と思われるかもしれませんが、もう少し詳しくいえば、生化学的にタマネギの涙が出る成分自身の酵素を決定したというのが今回の受賞者である今井さんらの業績です。タマネギを切るとなぜ涙が出るのかという長年の疑問に取り組み、「生化学過程はこれまで認識されていたよりも、ずっと複雑だった」という結論に至りました。では簡単に、彼らの業績と周辺のお話をとっても簡単に解説してみましょう。
【詳説】2013年イグノーベル化学賞!「涙のでないタマネギ開発」
大阪大学インタラクティブ合宿セミナーに参加しました
先日、京都の合宿所で大阪大学のあるプログラムの合宿に講師として呼ばれましたので参加してきました。あるプログラムとはインタラクティブ物質科学・カデットプログラム。現在日本学術振興会が先導して選抜された大学で行われている博士課程教育リーディングプログラムの1つです。今回は講師として研究者としてでなく、化学コミュニティーをウェブで展開しているChem-Staionの代表として呼ばれましてお話ししてきました。
ところで、リーディングプログラムとはなに?カデットプログラムとは?
と思われる方、いろいろ聞き慣れないものばかりだと思いますので、少しはじめに解説しながら今回の合宿セミナーの話をしたいとおもいます。